
富士山の一般的な登山シーズンは盛夏の7~8月。なかでも例年7月中旬の梅雨明けから8月いっぱいがベストシーズン。冷夏などの異常気象と台風を除けば、この間、天候は比較的、安定している。富士山の山小屋の多くも7~8月の夏期営業となっている。
ただし、ベストシーズンでも週末とお盆は混雑し、登山道に長い列ができたり、山小屋も定員に達することが多い。マイペースでより快適に登るなら混雑しにくい日を選んで計画しよう。

富士山の主要登山コースは、吉田口(河口湖口)、須走口、富士宮口の3つ。所要時間(休憩を含まず)は往復8~9時間。登山口の五合目から夜を徹して登り続け、頂上でご来光を迎える日帰り登山も盛んだが、体力的にはきわめてハード。
頭痛や吐き気などの症状が出る高山病も心配だ。そこで、一気に登らず、通常、七~八合目の山小屋に泊まり、体を高度に慣らしてから頂上を目指す1泊2日の行程を組むと、余裕が生まれる。

特殊な立地条件にある富士山の山小屋は、ごく簡素な宿泊施設。洗面や浴室の設備はなく、寝室も相部屋が基本。頂上でご来光を望むには未明に出発するため、山小屋では夕方から深夜まで夕食と休憩・仮眠をとる程度の滞在がほとんど。あくまで登頂の足がかりとして利用する施設だ。
また富士山の山小屋は予約による定員制で、混雑時でも1人布団1枚程度のスペースは確保される。山小屋に泊まる場合は、事前に予約を入れよう。

富士登山に適したウェアや用具など、装備をしっかり整えることも計画の大きなポイント。とくに重要な装備は、足のくるぶしまでを包むタイプのトレッキングシューズ、荷を背負って歩くためのザック、風を伴った雨に対処し防寒にも役立つ上下セパレートタイプの雨具、頭に装着するヘッドランプなど。
これらをはじめて揃える場合、できれば登山専門店で相談しながら購入し、また事前に履き慣らしをしたり、使い方をマスターしておこう。
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富士登山の装備のうち、ついおろそかになりがちなのが防寒着。真夏でも富士山の頂上の気温6度前後、風が強いと体感温度は氷点下にもなる。東京の真冬並みの寒さだ。そこでセーターや手袋、帽子などの防寒着が必需品。登山口の五合目ではTシャツ1枚でも、七合目付近からは長袖シャツを重ね、頂上ではさらにセーターや雨具を着込んで寒さに対処する。
頂上でご来光を迎える場合、とくに夜明け前は冷え込むので防寒対策を万全に。

登山口の五合目に着いたら、すぐに出発せず、最低30分は軽く散歩をしたり、ストレッチをしながら体を高度に慣らそう。水も出発前からよく補給しておく。とくにエアコンの効いたバスや車に長時間乗車していた場合、軽い脱水症状を起こしているケースがあるので、水分補給は重要だ。
水分を摂るとトイレが気になるが、トイレはこれから山小屋ごとにあるので心配不要。また昼間は紫外線が強いため、日焼け止めを塗るなどの対策も忘れずに。

歩きはじめの30分~1時間ほどは体が温まってくるまで、ごくゆっくり歩くのが登山の基本。富士山の主要コースは、五合目から六合目にかけて緩斜面で、ウォーミングアップにちょうどよい条件だ。
六合目からは傾斜が強まり本格的な登りになる。歩行ペースは呼吸が無理なく続く範囲にとどめ、歩幅は普段よりも小刻みに。さらに前かがみならないよう背筋を伸ばし、靴底全体で地面をとらえるようにして歩くと、バランスが安定する。

登山では疲れたら休憩するというより、疲れる前に休憩をとって、コンディションを維持する。富士山は頂上までひらすら登りが続くので、もし途中でぐったり疲れてしまったら登山の続行は困難だ。そこで30~40分歩いたら5~10分の休憩をはさみ、このリズムをなるべくくずさないよう登っていく。
休憩地は山小屋周辺やほかの登山者の妨げにならない登山道わきのスペースなど。コースを外れず、落石や滑落の危険がないところを選ぼう。

長い時間を歩く登山では、日常の昼食といった決まった食事以外にも、休憩ごとにエネルギー源を補給する。そのための食料が行動食。糖質を多く含む菓子類やフルーツ、汗とともに失われたミネラル分を補給できるサプリメント食品などが適している。
水分は休憩時に限らず、歩行中でもこまめに補給すると効果的。飲料はペットボトルのお茶やスポーツドリンクなど出発時に1リットル程度用意し、あとは途中の山小屋で購入するとよい。

富士登山のアクシデントで多いのは、頭痛や吐き気など高山病の兆候。高山病は酸素吸入によって一時的に緩和することはあるが、登り続ける限り、改善する例はあまりない。対処の基本は登山を中止して下山すること。
外傷やネンザなどの場合は応急処置をする。そのための救急薬品は登山の必需品だ。また吉田口七合目・八合目と富士宮口八合目には救護所がある。重大な事故の場合は、携帯電話か山小屋から110番通報をして救助を求める。

ごく簡素な施設の山小屋も、高所の環境では、寒さや風をよけ、体を休ませることができる貴重な拠点である。もし少しでも快適に過ごしたいと考えるなら、バンダナを枕カバーにしたり、ウェットテッシュを持参して汗をぬぐうなど工夫をしよう。
しかし、頂上に立つための足がかりとすることが山小屋に泊まる最大の目的。ひと時でも体を休ませ、高度に慣れることを優先して考えれば、多少のことは気にしない割り切りも、山小屋利用のコツ。

七~八合目の山小屋に泊まり、頂上でご来光を迎えるには、山小屋を午前1時前後には出発する。夜間の気温は10度を下回るので、まずセーターやレインウェア、帽子、手袋などで防寒する。
照明はヘッドランプを使う。夜間も登山者が列をなし、その列について登っていけば、道に迷うといった心配はない。ただし、体力的にはハードだ。もし不安を感じたら、朝まで山小屋でゆっくり休み、明るくなってから頂上を目指そう。

九合目付近まで登ってくると、いよいよと期待が高まってくる。夜間登山なら日の出の時刻が気になってくる。ただし頂上直下は傾斜が強く、高山病の兆候も出やすい条件だけにオーバーペースは禁物。これまで通り、休憩をはさみながら、無理のないペースで登っていこう。
もし息が続かなくなったら、立ち止まって深呼吸する。ゆっくりと息をはいて深く吸い込む複式呼吸をするだけでもだいぶ違う。あとは気力でがんばろう。

無事、頂上に登り着き、これからご来光を待つなら、まずは体が冷えないうちに防寒を整えよう。ご来光のあとは、山頂火口を一周するお鉢めぐりへと足を延ばしたい。お鉢めぐりのハイライトは、なんといっても富士山頂の最高点・剣ヶ峰への登頂だ。
ただし、風雨が強いときや体調がすぐれない場合、無理は避けよう。各コースの頂上に登り着くことで富士山登頂は達成できた。場合によっては五合目まで安全に下山することを優先しよう。

登頂した安堵感からか、山頂では高価だからか、忘れがちなのが下りの飲料水。
特に河口湖口(吉田口)へ下山するときには、8合目付近で小屋近くを通過する以外は、まったく店がない下山路を歩くのだ。
ご来光後、燦々と照りつける日差しの中、木陰も沢水もない溶岩の乾いた道。しかも下りの距離も高さも日本一。そんな中を4時間以上歩くことを考えたら、高価でも山頂で飲料水を確保しておこう。
ついでに、トイレも遠いゾ。

みごと登頂を達成できても、無事、下山するまでが富士登山だ。気を引き締め直して下山をはじめよう。主要3コースのうち富士宮口は、登り着いた頂上から同じコースを下りはじめるが、吉田口と須走口は下山専用道へ進む。
さらに八合目で、須走口と吉田口が分岐するので必ず標識を確認しよう。靴に入り込む砂にはスパッツで防ぎ、砂ぼこりがひどいときはマスクやゴーグルで対策しよう。また下りではストックや登山杖が役立つ。


忘れがちなのが五合目での準備と高所順応のための時間。五合目で1~2時間程度の滞在を計画に組み込むこと。また、平日に登るなど登山道や山小屋の混雑をできるだけ避けるプランを組みたい。山頂でのご来光にこだわって渋滞の登山道を登る必要はないが、中腹からでも印象に残る風景は見せたい。
近郊の低山に登るなど、内容がしっかりした事前のトレーニング山行を必ず行ない、それを通じて「富士山の山頂に立つんだ」という目標を子どもにもたせること。
つらさから逃れようとする態度を見せたときは、ときに厳しくなることも必要。しかし、がんばったときはほめることも忘れずに。
登山靴や服装はきちんとしたものを与え、定期的な水分補給などに気をつけること。
富士山は火山です。頂上の大きな火口はもちろん、おもしろい形の溶岩や軽石などを観察できます。デジカメを持たせれば、富士火山ならではのものがいっぱい撮れます。また、袋菓子を持っていけば、気圧の影響でパンパンに膨らんだ袋に感動できます。これだって、標高ごとに写真を撮っていけば充分、自由研究になります。
富士山のゴミ問題は、残念ながらまだまだあります。とくに頂上直下のゴミ、おそらく過去に山小屋が埋めたものを多く見ることができます。また、環境にやさしいバイオトイレなどもあり、環境問題のレポートもちょちょいです。
子どもに限らず、コレクションは楽しいもの。登山口で買った金剛杖(1000円程度)に山小屋を通過するたびに焼き印(ひとつ200円程度)を押してもらうのです。それは日本一のスタンプラリーです。しかも、ジューって目の前で焼いてくれるのでとても楽しいのです。
富士宮の山頂には夏の間、郵便局がオープンしています。事前に手紙を用意するのもいいのですが、郵便局にさまざまな記念はがきや登頂証明書代わりのはがきなどが準備されています。夏休みの思い出には最高です。
男の子にはすてきなお姉さんを、女の子にはさわやかなお兄さんを同行させましょう。みんながんばると思います。きっとお父さんお母さんもがんばれます。まぁ冗談ですが、グループで登ると、励ましあうことで登頂率も上がりますし、感動も倍増します。ただし、体調がわるくなったとき「迷惑をかけるから」と無理をしてしまうのは厳禁。つねに子どもの体調に注意を払うことを忘れずに。
1961年生まれ。高校時代から社会人山岳会に所属し、登山とクライミングに熱中する。現在、『山と溪谷』『ヤマケイJOY』といった山岳雑誌で山岳ライター・カメラマン
として活躍。『富士山ブック』では2003年の創刊から関わり、毎年、富士山に登っている。
著書に
『アルペンガイド 八ヶ岳』
『展望の山歩きベストコース 関東周辺』
『今から始める山歩き』
『マイカー登山ベストコース50 関東周辺』
『マイカー登山2 ベストセレクト50関東周辺&日本アルプス』
(すべて山と溪谷社刊)がある。
登山口別コースガイドや、山頂の山小屋に設置されたQRコードから取得できる登頂認定証など、携帯ならではのサービスを用意。ぜひ「山と溪谷モバイル」にアクセスしてみてください。
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